過払い金|賃金体系の変更を定年退職後に適用


主文

1第1審原告らの控訴及び請求の拡張に基づき,原判決主文二,三項を次のとおり変更する。
(1)第1審被告は第1審原告P1に対し,792万6277円及び本判決別紙Aの「賃金差額」欄記載の各金員に対する同「損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
(2)第1審被告は第1審原告P2に対し,1367万2587円及び本判決別紙Bの「賃金差額」欄記載の各金員に対する同「損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
(3)第1審被告は第1審原告P3に対し,750万9418円及び本判決別紙Cの「賃金差額」欄記載の各金員に対する同「損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
(4)第1審被告は第1審原告P4に対し,1637万8042円及び本判決別紙Dの「賃金差額」欄記載の各金員に対する同「損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
(5)第1審被告は第1審原告P5に対し,1154万9739円及び本判決別紙Eの「賃金差額」欄記載の各金員に対する同「損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
(6)第1審被告は第1審原告P6に対し,1447万2400円及び本判決別紙Fの「賃金差額」欄記載の各金員に対する同「損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
(7)第1審原告らのその余の請求(当審における請求の拡張部分を含む。)をいずれも棄却する。
2第1審被告の控訴及び仮執行の原状回復申立てをいずれも棄却する。
3訴訟費用は,上告審で訴訟費用の負担を命じられた部分を除き,原審,差戻前当審,上告審及び差戻後の当審を通じてこれを5分し,その3を第1審被告の負担とし,その余を第1審原告らの負担とする。
4この判決は1(1)ないし(6)項に限り,仮に執行することができる。

事実

第1申立て

1第1審原告ら
(控訴の趣旨)
(1)原判決主文二項以下を次のとおり変更する(第1審原告らは,差戻前及び差戻後の当審においていずれもその請求を拡張した。)。
(2)第1審被告は第1審原告P1に対し,1271万7189円及びうち本判決別紙一の番号1ないし68の「賃金差額」欄記載の各金員について,同「損害金起算日」欄記載の各日から平成4年10月9日まで年6パーセント,平成4年10月10日から各支払済みまで年14.6パーセントの,うち同番号69ないし71の「賃金差額」欄記載の各金員について,同「損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年14.6パーセントの,各割合による金員を支払え。
(3)第1審被告は第1審原告P2に対し,2109万7907円及びうち本判決別紙二の番号1ないし70の「賃金差額」欄記載の各金員について,同「損害金起算日」欄記載の各日から平成6年2月25日まで年6パーセント,平成6年2月26日から各支払済みまで年14.6パーセントの,うち同番号71の「賃金差額」欄記載の金員について,同「損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年14.6パーセントの,各割合による金員を支払え。
(4)第1審被告は第1審原告P3に対し,1260万9545円及びうち本判決別紙三の番号1ないし69の「賃金差額」欄記載の各金員について,同「損害金起算日」欄記載の各日から平成6年4月2日まで年6パーセント,平成6年4月3日から各支払済みまで年14.6パーセントの,うち同番号70ないし72の「賃金差額」欄記載の各金員について,同「損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年14.6パーセントの,各割合による金員を支払え。
(5)第1審被告は第1審原告P4に対し,2517万2097円及びうち本判決別紙四の番号1ないし69の「賃金差額」欄記載の各金員について,同「損害金起算日」欄記載の各日から平成8年1月14日まで年6パーセント,平成8年1月15日から各支払済みまで年14.6パーセントの,うち同番号70及び71の「賃金差額」欄記載の各金員について,同「損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年14.6パーセントの,各割合による金員を支払え。
(6)第1審被告は第1審原告P5に対し,1805万5857円及びうち本判決別紙五の番号1ないし70の「賃金差額」欄記載の各金員について,同「損害金起算日」欄記載の各日から平成8年1月23日まで年6パーセント,平成8年1月24日から各支払済みまで年14.6パーセントの,うち同番号71の「賃金差額」欄記載の金員について,同「損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年14.6
パーセントの,各割合による金員を支払え。
(7)第1審被告は第1審原告P6に対し,2276万6892円及びうち本判決別紙六の番号1ないし68の「賃金差額」欄記載の各金員について,同「損害金起算日」欄記載の各日から平成8年11月13日まで年6パーセント,平成8年11月14日から各支払済みまで年14.6パーセントの,うち同番号69ないし71の「賃金差額」欄記載の各金員について,同「損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年14.6パーセントの,各割合による金員を支払え。
(8)訴訟費用は第1,2審とも第1審被告の負担とする。
(9)仮執行宣言((2)ないし(7)につき)
(なお,第1審原告らの専任職及び給与辞令の発令の無効確認を求める請求部分は,いずれも上告棄却により確定しており,また,P1を除く第1審原告らの労働契約上の地位確認を求める請求部分についての訴えは,差戻前及び差戻後の当審においていずれも取り下げられた。)
(第1審被告の控訴の趣旨に対する答弁)
(1)第1審被告の控訴を棄却する。
(2)控訴費用は第1審被告の負担とする。
(仮執行の原状回復の申立ての趣旨に対する答弁)
第1審被告の当該申立てを棄却する。
2第1審被告
(控訴の趣旨)
(1)原判決主文二項を取り消す。
(2)前項の部分につき,第1審原告らの請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも第1審原告らの負担とする。
(第1審原告らの控訴の趣旨に対する答弁)
(1)第1審原告らの控訴(当審における請求の拡張部分を含む。)をいずれも棄却する。
(2)控訴費用は第1審原告らの負担とする。
(仮執行の原状回復の申立ての趣旨)
第1審被告に各金員の支払を命じた原判決が取り消され,第1審原告らの請求が棄却されたときは,第1審被告に対し,第1審原告P1は537万2120円,第1審原告P2は354万5860円,第1審原告P3は287万0530円,第1審原告P4は159万円,第1審原告P5は132万6280円,第1審原告P6は32万5200円及び各金員に対する平成5年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2当事者の主張

当事者の双方の主張は,次のとおり原審における主張を変更,追加し,差戻前及び差戻後の当審における主張を付加するほかは,原判決事実摘示のとおりであるから,これを引用する(た
だし,原判決14丁裏3行目「貸金需要」を「資金需要」と,23丁表8行目「6500円」を「6万5000円」とそれぞれ改める。)。
(第1審原告ら)
1第1審原告らの原審の主張の変更・追加
(1)第1審原告P2は平成6年2月25日に,同P3は同年4月2日に,同P4は平成8年1月14日に,同P5は同年1月23日に,同P6は同年11月13日に,それぞれ第1審被告を定年により退職した。
(2)第1審原告P1
ア平成元年10月から平成2年3月までの定例給(月給)(本判決別紙一記載の番号27及び28,30ないし33)につき,専任職発令・新専任職制度の適用を受けたことにより削減された賃金と,その発令等がなかった場合の賃金との差額金(これは,専任職制度の創設と改定のために昭和61年及び昭和63年に行われた第1審被告の就業規則並びに就業規則の性質を有する給与規定及び役職制度運用規定(以下,これらを合わせて「就業規則等」という。)の変更(以下「本件就業規則等変更」という。)により削減された現実の賃金とその変更による削減がなかった場合の計算上の賃金との差額金であり,賞与についても,その変更による削減と考えるべきことは後記主張のとおりである。)を原審においては8万2200円としていた(原判決別紙3(一)(二))が,第1審被告は,この時期に,各従業員に対し「コース別人事制度」導入に伴い,月額1500円の本給調整を行っていたので,その間の定例給の差額金は,実際には月額8万3700円であった。
イ平成元年12月支給の臨時給(賞与)の同差額金も,原審主張の53万0160円(原判決別紙3(一)(二))ではなく,前記本給調整金1500円の300パーセント(原判決別紙2)である4500円増加し,53万4660円の差額となる(本判決別紙一記載の番号29)。
ウ第1審被告の給与規定によれば,賞与については,支給対象期間(6月支払の上期分は前年10月1日から当年3月31日まで,12月支払の下期分は4月1日から9月30日まで)の途中で退職した場合,次の支給日に日割計算で支払われることとなっており,第1審原告P1は平成4年10月9日に定年退職し,平成5年6月10日に臨時給として8万1399円の支払を受けるべきところ,2万9730円の支払を受けたので,本判決別紙一番号71記載のとおり5万1669円の削減を受けた。
エ以上のとおり,原審主張よりも合計6万5169円の差額金増加となる。
(3)第1審原告P2
ア平成元年10月から平成2年3月までの定例給(本判決別紙二記載の番号9及び10,12ないし15)につき,専任職発令・新専任職制度適用により削減された賃金と,その発令等がなかった場合の賃金との差額金を原審においては11万0200円としていた(原判決別紙4(一)(二))が,第1審被告は,前記のとおりこの時期に前記事情で月額1500円の本給調整を行っていたので,その間の定例給の差額金は実際には,月額11万1700円であった。
イ平成元年12月支給の賞与の同差額金も,原審主張の67万5280円(原判決別紙4(一)(二))ではなく,前記本給調整金1500円の300パーセント(原判決別紙2)である4500円増加し,67万9780円の差額となる(本判決別紙二記載の番号11)。
ウ原審で請求した翌月の平成4年4月から定年退職した平成6年2月までの間に,専任職発令・新専任職制度適用により本判決別紙二番号44ないし70記載のとおり合計1021万2800円の賃金等の削減を受けた(その明細は本判決別紙1記載のとおり)。
エまた,平成6年2月25日に定年退職し,前記(2)ウにより平成6年6月10日に賞与として131万9945円の支払を受けるべきところ,43万2678円の支払を受けたので,本判決別紙二番号71記載のとおり88万7267円の削減を受けた。
オ以上のとおり,原審主張よりも合計1111万3567円の差額金増加となる。
(4)第1審原告P3
ア平成元年10月から平成2年3月までの定例給(本判決別紙三記載の番号7及び8,10ないし13)につき,専任職発令・新専任職制度の適用により削減された賃金と,その発令等がなかった場合の賃金との差額金を原審においては3万8900円としていた(原判決別紙5(一))が,第1審被告は,前記のとおりこの時期に,前記事情で月額1500円の本給調整及び月額3000円の「役職手当調整」(係長の場合月額3000円)を行っていたので,その間の定例給与の差額金は実際には月額4万3400円であった。
イ平成元年12月支給の賞与の同差額金も,原審主張の37万0550円(原判決別紙5(一)(二))ではなく,前記本給調整金1500円の300パーセント(原判決別紙2)である4500円増加し,37
万5050円の差額となる(本判決別紙三記載の番号9)。
ウ原審で請求した翌月の平成4年4月から定年退職した平成6年4月までの間に,専任職発令・新専任職制度適用により本判決別紙三番号42から70記載のとおり合計651万3200円の賃金等の削減を受けた(そのうち平成4年4月から平成6年3月までの差額金637万0400円の明細は本判決別紙2(一)記載のとおり)。
なお,同番号70について,第1審被告の給与規程によれば,定年及び死亡退職の場合は,退職発令にかかわらず当月分は全額支給することとなっており,給与支払日(毎月21日)前に退職した場合には上記支払日に当月分全額が支払われることになっているので,平成6年4月2日に定年退職した第1審原告P3は,同月21日に42万2300円の定例給の支払を受けるべきところ,27万9500円の支払を受けたので,14万2800円削減されたこととなる(本判決別紙2(二))。
エ第1審原告P3は,前記のとおり定年退職したが,前記(2)ウにより平成6年6月10日に賞与として133万4400円の支払を受けるべきところ,56万9000円の支払を受けたので,本判決別紙三番号71記載のとおり76万5400円の削減を受けた(本判決別紙2(二))。
オまた,平成6年12月9日に賞与として1万1067円の支払を受けるべきところ,4552円の支払を受けたので,本判決別紙三番号72記載のとおり6515円の削減を受けた(本判決別紙2(二))。
カなお,原審において,平成元年6月の賞与の差額を4万円としていた(原判決別紙5(一)(二))が,同賞与は,専任職発令前の昭和63年10月から平成元年3月までが支給対象なので誤りであり,本判決別紙三番号2記載のとおり差額はない。
キ以上のとおり,原審主張よりも合計727万6615円(前項カの金額を控除した残額)の差額金増加となる。
(5)第1審原告P4
原審で請求した翌月の平成4年4月から定年退職した平成8年1月までの間に,専任職発令・新専任職制度適用により本判決別紙四番号17から70記載のとおり合計2068万3000円の賃金等の削減を受け,さらに前記(2)ウにより,上記退職後の平成8年6月10日に支払を受けた賞与につき,同番号71記載のとおり64万7630円の削減を受けた(以上の差額金合計2133万0630円。
そのうち平成4年4
月から平成7年3月までの差額金の明細は本判決別紙3(一)(二)記載のとおりであり,その後の平成7年4月以降の差額金合計555万6030円の明細は本判決別紙6記載のとおりである。)。
(6)第1審原告P5
原審で請求した翌月の平成4年4月から定年退職した平成8年1月までの間に,専任職発令・新専任職制度適用により本判決別紙五番号17から70記載のとおり合計1483万8000円の賃金等の削減を受け,さらに前記(2)ウにより,上記退職後の平成8年6月10日に支払を受けた賞与につき,同番号71記載のとおり53万4483円の削減を受けた(以上の差額金合計1537万2483円。
そのうち平成4年4月から平成7年3月までの差額金合計1129万3400円の明細は本判決別紙4(一)(二)記載のとおりであり,その後の平成7年4月以降の差額金合計407万9083円の明細は本判決別紙7記載のとおりである。)。
(7)第1審原告P6
原審で請求した翌月の平成4年4月から定年退職した平成8年11月までの間に,専任職発令・新専任職制度適用により本判決別紙六番号5から69記載のとおり合計2080万0567円の賃金等の削減を受け,さらに前記(2)ウにより,上記退職後の平成8年12月10日に支払を受けた賞与につき同番号70記載のとおり110万5300円,翌平成9年6月10日に支払を受けた賞与につき同番号71記載のとおり25万5825円の削減を受けた(以上の差額金合計2216万1692円。
そのうち平成4年4月から平成7年3月までの差額金合計1337万1867円の明細は本判決別紙5(一)(二)記載のとおりであり(明確な計算違いがあるので訂正。),その後の平成7年4月以降の差額金合計878万9825円の明細は本判決別紙8記載のとおりである。)。
(8)したがって,第1審原告らの各専任職発令時から各退職時(ただし,賞与等について,退職後に支払われたものもあることは前記のとおりであり,それを含む。)までの賃金差額金総合計は,本判決別紙一ないし六記載のとおり(そのうち賞与の差額金の支給算式については別紙七記載のとおり)であって,第1審原告P1については1271万7189円,第1審原告P2については2109万7907円,第1審原告P3については1260万9545円,第1審原告P4については2517万2097円,第1審原
告P5については1805万5857円,第1審原告P6については2276万6892円である。
(9)損害金の請求について
ア第1審原告らに対する定例給及び賞与(臨時給)の支払日は,本判決別紙一ないし六の各「支払日」欄記載のとおりであるから,第1審被告は第1審原告らに対し,同別紙記載の各賃金差額について,同各「損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで遅延損害金を支払う義務があるところ,法人が労働者と締結する雇用契約は反証なき限りその営業のためにするものと推定されるので,第1審被告と第1審原告らとの間の雇用契約に基づく賃金債務の遅延損害金の利率は,商事法定利率年6分によるべきである。
イまた,賃金の支払の確保等に関する法律6条1項,同法施行令1条によれば,退職した労働者に係る賃金の全部又はその一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあっては,当該支払日)までに支払わなかった場合には,当該労働者に対し,当該退職の日(当該支払日)の翌日からその支払をする日までの期間について,年14.6パーセントの遅延利息を付すべきことを定めている。
ウしたがって,第1審被告は第1審原告らに対し,本判決別紙一ないし六記載の各賃金差額について,同記載の各支払日の翌日から退職の日までは商事法定利率年6パーセント,退職の日(退職後に支払われた賞与等については当該支払日)の翌日から支払済みまでは年14.6パーセントの各割合による遅延損害金の支払義務がある。
(10)よって,第1審原告らは第1審被告に対し,前記(8)記載の各金員とそのうち本判決別紙一ないし六記載の各賃金差額について,前記(9)ウ記載のとおりの遅延損害金の支払を求める。
2第1審原告らの当審における主張及び第1審被告の後記主張に対する反論(1)本件上告審判決(本件差戻前の控訴審判決に対する上告審判決)によれば,本件就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は第1審原告らに対してその効力を有しないと解すべきところ,無効な賃金減額の具体的内容は,1業績給の削減並びに役職手当及び管理職手当の不支給(専任職手当で補てんされている部分を除く。),2賃金の昇給部分については,本件就業規則等変更がなければ支給されたと認められる額の限度,3賞与については,本件就業規則等変更により賃金が削減された結果賞与支給額が減額されたと認められる
額の限度である。
したがって,管理職手当の支給停止が本件就業規則等変更による賃金の減額に該当しないとか,本件専任職制度で満55歳到達時以降の基本給(本給と業績給)を,満54歳末時点の基本給をもって凍結したことによる,55歳到達時以降の昇給額が本件就業規則等変更による賃金の削減に含まれないという第1審被告の主張は,差戻前の控訴審判決を破棄した本件上告審判決の拘束力を無視するものであって許されない。
(2)第1審被告は,第1審原告らが専任職発令・新専任職制度の適用がなかった場合の賃金につき,第1審原告らが専任職の発令を受けず,かつ標準の勤務査定を受けたと仮定した場合の第1審原告らの賃金額を算出し,現実に支払を受けた賃金との差額を算出して請求したところ,第1審被告は,原審及び差戻前の当審において,標準査定を争っただけでその金額を認めており,差戻前の当審までに請求した分の差額金の額については自白が成立しているというべきであるから,それが錯誤に基づくことを立証しなければその撤回は許されない。
したがって,差戻後の当審での審理の対象は,1第1審原告らが差戻後の当審で主張を変更・追加した分,2第1審原告らが標準査定を受けた蓋然性,3賞与の支給率削減の効力に限られるべきである。
(3)ところで,業績給の査定昇給について,第1審被告は,当然に標準の査定による昇給額が認められるべきものではなく,むしろ査定は最低ないしこれに近いものとすべきであると主張し,その根拠として,専任職移行者の職務が質・量ともに軽減された業務に従事していることをあげているが,本件上告審判決は,賃金削減を正当化するに足りるほどの職務の軽減が現実に図られているとは言えないと明確に判示しており,第1審被告の主張はその前提を欠くものである。
(4)また,業績給の昇給は,第1審被告も認めているように,人事考課に基づき「査定昇給表」により行う旨給与規程に定められており(乙2の3の給与規程20条),その査定は,昭和63年まではS,A,B,C,Dの5段階,平成元年度以降は5から1までで,そのうち3についてはこれを上,中,下と分ける7段階であり,最低段階の査定に対しては昇給ゼロとされているところ,第1審原告らのように専任職への発令を受けた行員は現実には査定を受けていない。
そして,人事考課規程(甲120の2)に考課期間は毎年1月1日か
ら12月31日と定められていて,考課期間外の事実をもって考課しないとされており,専任職発令前の査定がどうであれ影響を及ぼすことはないのである。
そして,会社の責めに帰すべき事由で査定されなかった場合には,特段の事情がない限り,賃金協定に定められた平均賃金配分額をもって,査定が行われていたならば受けるべきであった賃金額とするのが最も合理的で,かつ客観的にも可能と解されるのであり,本件においても,標準査定により業績給を算定すべきである。
(5)賞与の支給率について
賞与の支給率の削減が本件専任職制度の導入と不可分の関係にあることは第1審被告の主張に照らしても明らかなところ,本件上告審判決のいう「本件就業規則等変更」とは「専任職制度の創設と改定」を指し,専任職の賞与の削減は,この「専任職制度の創設と改定」として行われたものであるから,賞与の支給率及び業績メリット(α)の削減も,本件就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分」に該当する。
なお,専任職制度の導入以前の,一般職員と専任職との間で格差がなかった賞与の支給率は甲135号証のとおりであるところ,第1審被告は,専任職制度導入後,従組の異議を無視して第1審被告回答のとおり賞与を支給し,現在に至っているものである。
(6)賞与のうち業績メリット(α)の削減について
賞与は(基本給+家族手当)×300パーセント+αの算式で算出されるべきところ,賞与の削減は,積算の基礎となる基本給の減額や300パーセントから200パーセントへの賞与支給率の削減に止まらず,業績メリット部分の削減が削減額全体のなかで大きな割合を占めている。
例えば,第1審原告P1の昭和63年6月の賞与の削減額32万0780円のうち業績メリット削減額は18万5000円で57パーセント,第1審原告P2の平成元年12月の賞与の削減額67万9780円のうち業績メリット削減額は41万5000円で,61パーセントをそれぞれ占めている。
この業績メリットは,個人業績と店舗業績の2つの要素からなり,個人業績は,役職区分毎にS,A,B,C,Dの5段階に勤務査定され,C以上について査定に従って額が決められており,店舗業績については,S,Aの査定の店舗に属した場合にのみ,役職に応じて支給される。
一般行員の場合,個人業績がB,C評価の者にもメリット配分されるが,専任職の場合には,S
又はAの評価の場合でなければ支給されない。
平成元年以降は,前記(4)記載のとおり改正され,標準査定が「3中」となったところ,一般行員の場合は,「2」の査定以上の者(ただし,平成6年6月以降は「1」の査定の者にも支給されるようになった。)にも個人業績分が支給されるが,専任職の場合には,「5」又は「4」の査定でなければ支給されない(ただし,平成6年6月以降は「3」の査定の場合も支給されるようになった。)。
ところで,第1審原告らの専任職発令時の役職区分は,第1審原告P1は代理,第1審原告P2は課長,第1審原告P3は係長,第1審原告P4は課長,第1審原告P5は代理,第1審原告P6は調査役であったが,前記(4)のとおり,専任職に対する査定がなされていないので,標準査定を採用するしかないというべきであるから,第1審原告らの査定は,標準査定の「B」又は「3中」とすべきである(店舗業績については,立証できないため,第1審原告らの請求額の算定においてこれを考慮していない。)。
以上の考えに基づく賞与の差額金の支給算式は別紙七記載のとおりである。
(7)前記主張の本判決別紙一ないし六記載の差額金は,以上の第1審原告らの主張に基づき,本件就業規則等変更による賃金の削減がなかった場合の計算額と現実の支給額との差額を算出したものである。
3仮執行の原状回復申立て理由に対する認否
申立て理由(1)の事実は認める。
(第1審被告)
1第1審原告らの原審の主張の変更・追加に対する認否・反論
(1)第1審原告らの原審の主張の変更・追加の項の(1)の事実は認める。
同(2)ないし(8)の事実のうち,平成元年10月から平成2年3月までの間,第1審被告が専任職以外の各従業員に対して月額1500円の本給調整を行ったこと,支給対象期間の途中で退職した場合の賞与につき,第1審被告の給与規定では,次の支給日に日割計算で支給する定めとなっていること,第1審原告P1が定年退職後の平成5年6月10日に2万9730円の賞与支給を受けたこと,第1審原告P3が定年退職後の平成6年4月21日に27万9500円の定例給の支給を受けたことは認めるが,その余はすべて争う。
第1審原告P2が平成6年6月10日に支給された賞与は42万5364円,同P3が同年12月9日に支給された賞与は4472円,同P6が平成4年6月に支給された賞与は
91万8733円である。
第1審原告らが主張する請求金額は,本件就業規則等変更による第1審原告らの賃金の削減と認め得る金額とはいえない。
すなわち,定例給については,主として新専任職制度の結果である基本給(本給と業績給)の凍結は賃金の削減にあたらないし,賞与については,本件上告審判決が「本件就業規則等変更により賃金が削減された結果賞与支給額が減額されたと認められる限度」として,賞与支給率の200%を前提としているのであるから,これらに反した計算に基づく金額を基礎としたその差額計算は認められない。
また,定期昇給において標準査定を受けたとしているのも全く根拠を欠くものである。
(2)同1(9)の事実のうち,定例給及び賞与(臨時給)の支払日は認めるが,その余は争う。
特に,14.6パーセントの損害金の請求については,賃金の支払の確保等に関する法律6条2項に,「前項の規定は,賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には,その事由の存する期間について適用しない。」と定め,同法施行規則6条4号に,そのやむを得ない事由の一として「支払が遅滞している賃金の全部または一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所または労働委員会で争っていること」と定めているところ,本件の場合はまさに同号に該当するというべきであるから,第1審原告らの当該遅延利息の請求は理由がない。
2第1審被告の当審における主張
(1)基本給の減額の範囲について
本件上告審判決の趣旨からすると,基本給(本給と業績給)に関しては,第1審原告ら各人の専任職発令時の基本給額が維持・凍結されている限度で本件就業規則等変更の合理性が認められてしかるべきであるが,百歩譲ってもその変更による賃金の削減と認められる金額は,ベースアップによる基本給表書換えの限度を超えるものではない。
ちなみに,第1審原告ら各人の専任職発令時の基本給額及びその後の各本給・業績給のベースアップによる書換え額は,本判決別表一記載のとおりである。
仮に,本件上告審判決のいう「賃金の削減」とは基本給(業績給)について定期昇給を認めなかった結果をも含むものだとしても,当然に標準の査定による昇給額が認められるべきものとはいえず,むしろ査定は最低ないしこれに近いものとすべきである。というのは,第1審原告らは
専任職発令により,質・量ともに軽減された業務に従事しているからである。
したがって,仮に専任職発令以前に標準の査定を受けていたとしても,専任職発令後には標準の査定基準に達しないことは勿論のこと,専任職発令以前において標準に達しない査定を受けていた者については,当該職階ないし役職における査定基準の最低かそれに近い査定を受けたものとみなすのが道理である。
ところで,業績給昇給の査定については,第1審原告ら主張のとおりであって,最低段階の査定に対しては昇給ゼロとされているところ,先の考え方によると,第1審原告P3及び同P5はそれぞれ「1」(いずれも平成元年度以降),その余の4名の第1審原告らはいずれも「C」(第1審原告P1については昭和63年度のみ)ないし「2」(平成元年度以降)と査定するのが妥当であり,その結果としての各人の想定し得る業績給の定期昇給額は,別表二記載のとおりである。
(2)手当の減額について
本件専任職制度により,満55歳に達すると管理職階又は監督職階から専任職階に移行し,役職手当及び管理職手当の支給がなくなり,その代わりに専任職手当が支給されることになったところ,この専任職手当もその後廃止されたが,本件専任職制度導入による役職手当と専任職手当の差額部分が「賃金減額の効果を有する部分」に該当することは争わないものの,管理職手当の支給停止は,管理職手当が管理職の職責を果たすことに対して支払われるものである以上当然のことであり,管理職から外れることは,本制度を待たなくても人事権の行使として行い得るから,管理職手当不支給による減額分は,本件就業規則等変更による賃金の減額には該当しない(なお,本件新専任職制度による5年間の移行措置を設けた専任職手当の廃止がなかったとした場合に,第1審原告ら各人が専任職発令時に支給されるべきであった各自の役職に対応する専任職手当額は,本判決別表三記載のとおりである。
ただし,第1審原告P1については,昭和62年11月1日専任職発令時に現実に支給された額である。)。
(3)賞与(臨時給)の減額について
本件上告審判決によれば,賞与については,本件就業規則等変更により賃金が削減された結果賞与支給額が減額されたと認められる額の限度でのみ,その支払を求める第1審原告らの請求には理由があるとされているのであるから,賞与支給率の変更は,本件就業
規則等変更による賞与の減額を算定するにあたって考慮されるべきものではない。
ところで,専任職に対する賞与支給率は,昭和63年度から毎年20パーセントずつ逓減し,平成4年度以降は200パーセントとなっているので,このような支給率に基づき,基本給を対象とした算定基礎額の削減により減額となった賞与の計算額は,本判決別表四ー1(同別表一記載の基本給を基礎額としたもの),もしくは同別表四ー2(同別表一記載の基本給額に同別表二記載の業績給の定期昇給額を加算した額を基礎額としたもの)記載のとおりである。
なお,前記別表においては個人メリットは考慮していない。
それは,賞与支給額の算式に設けてある個人メリットは,役職別・業績別に定められていて,役職制度の適用及び業績の発揮が前提とされており,専任職移行者にはあてはまらないからである。
(4)本件就業規則等変更による賃金削減の合計額
以上の第1審被告の主張に基づき,本件就業規則等変更による賃金の削減がなかった場合の計算額と現実の支給額との差額を算出すれば,本判決別表五ー1(同別表一記載の基本給額を基礎額として算出したもの),もしくは同別表五ー2(同別表一記載の基本給額に同別表二記載の業績給の定期昇給額を加算した額を基礎額として算出したもの)記載のとおりである。
3仮執行の原状回復申立ての理由
(1)第1審被告は,仮執行宣言付の原判決に基づき,平成5年3月30日,第1審原告らに対し,前記当該申立ての趣旨記載のとおりの各金員(元金)を支払った。
(2)よって,当審において,第1審被告に前項記載の各金員の支払を命じた原判決が取り消され,第1審原告らの請求が棄却される場合には,第1審被告は第1審原告らに対し,民事訴訟法260条2項に基づき,仮執行の原状回復として,前記支払済みの各金員の返還とこれに対する前記支払をなした日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による損害賠償の支払を求める。

理由

第1請求原因1ないし3及び5(当事者の地位,第1審被告の定年制,本件各専任職制度の提案と実施),同4のうち,第1審原告P1に対し昭和61年5月1日に実施された当初の専任職制度に基づく専任職への発令があったこと,同6のうち,第1審原告P1に対し昭和63年4月1日実施された新専任職制度に基づく給与辞令の発令及びその余の第1審原告らに対し
専任職への発令があったこと,同7及び本判決の事実第2の1(1)(第1審原告らの定年退職),以上の事実は当事者間に争いがない。

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第2就業規則等変更による当初の専任職制度及び新専任職制度導入の経過とその内容並びに第1審原告らに対する実施状況について

1当初の専任職導入に至る経過及び金融情勢について
前記争いのない事実及び証拠(甲1ないし6,28,31の1ないし5,102の2,3,乙11ないし13,14の1ないし5,乙15,16の各1ないし3,18の2,3,21の1ないし3,22,35の4,39,40,原審証人P7,同P8,同P9,同P10,当審証人P11及び同P12)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(1)第1審被告は,昭和51年10月1日,株式会社青和銀行(以下「青和銀行」という。)と株式会社弘前相互銀行(以下「弘前相互銀行」という。)との合併によって成立した銀行である。
合併前の青和銀行の規模は,資本金8億円,預金量約1000億円,従業員数約650名,店舗数が36店舗であり,当時の地方銀行63行中,預金量の順位は61位であった。
他方,合併前の弘前相互銀行の規模は,資本金20億円,預金量約2500億円,従業員数約1500名,店舗数が52店舗であり,当時の相互銀行72行中,預金量の順位は22位であった。
(2)両行の合併の目的は,経営の効率化による企業体質の強化を目指したものであって,青和銀行においては,当時,地方銀行では急務とされていたオンラインシステムを単独で完成することは,その規模及び経営内容から大きな負担であったところ,弘前相互銀行では,7割方オンラインシステムが完成していたため,両行が合併することにより費用負担の軽減を図ることができること,弘前相互銀行においては,当時,相互銀行特有の高コストという体質が問題とされており,普通銀行に転換してイメージアップを図ることにより,事業を拡大し,経営の効率化を図ることができること,合併により両行の店舗が競合する地区について店舗を統廃合し,経費の削減と効率的な人事配置を図ることができること等の利点が考えられた。
労働条件については,基本的にはいずれかよい方に調整するものとされ,定年制については,青和銀行が55歳定年制を採用していたのに対し,弘前相互銀行が昭和26年から60歳定年制を採用していたため,
合併に当たっては,60歳定年制を採用することになった。
なお,地方銀行中で,当時,60歳定年制を採用していた銀行は4行に過ぎなかった。
(3)第1審被告は,合併により,10行ある東北地方銀行の中位行を目指すとの目標を置いたが,昭和51年下期から昭和62年までの間の,銀行における経営効率を示す各種指標は,原判決別紙9記載のとおりである。
これによると,ア合併直後の昭和51年下期の状態は,貸出金利回り,資金調達原価が全国の地方銀行63行の中で最高位にあるのに対し,経費率(預金残高に対する経費の比率),その内訳である物件費率及び人件費率がいずれも最下位から2,3番目,行員1人当たりの経常利益が最下位であり,行員1人当たりの預金量等平均残高が最下位から7番目という水準であるのに,1人当たりの人件費の額は全国の地方銀行の平均値と同額であって,高コスト・高利回りで収益力が弱いという企業体質が如実に示されていた。
イ昭和52年から当初の専任職制度実施の前年である昭和60年に至るこれらの指標には,多少の順位の変動はあるものの,第1審被告の貸出金利回り,資金調達原価,経費率(人件費率及び物件費率),行員1人当たりの預金量等平均残高,行員1人当たりの経常利益については,全国の地方銀行中で最悪あるいはそれに近い順位に低迷していた。
(4)この時期の我が国の銀行が置かれていた金融情勢は,おおむね次のようなものであった。
すなわち,従前は,臨時金利調整法により金利が低い水準で規制されていたため,銀行は,預金さえ集めれば利益を生むことができたところ,昭和50年代後半に入ると,低成長経済の影響で企業からの資金需要が減退するとともに,企業が自己金融力の強化を図るようになったため,貸出金の伸び率は以前の半分程度に止まるようになった。
また,法人からの預金も伸び悩む一方で,個人の預金も金利の高い郵便貯金に流れたため,預金の伸びも鈍化し,それまでは第1審被告において2桁台の預金の対前年増加率を示していたものが,3パーセント程度に止まるようになった。
さらに,企業の経営悪化に伴い貸出資産の内容が悪化し,その結果として銀行の収益力も低下し,また,国債等の大量発行に伴い,国債を媒体とした金融取引を開始した証券会社に企業の資金が流れるようになり,それに対抗するため,昭和54年には臨時金利調整法で規制されない譲渡性預金
(CD)が創設され,預金金利の自由化が始まった。
その後,昭和56年に証券会社の中期国債ファンドや郵便局の定額貯金に対抗するために,銀行独自の預金として一般定期預金よりは利率の高い期日指定定期預金が,昭和60年には市場金利連動型預金(MMC)が創設され,金融の自由化は拡大の一途をたどった。
(5)第1審被告においては,合併から1年を経過した昭和52年10月,人事部長を委員長とする人事部スタッフと営業店長等から成る「みちのく銀行人事制度研究会」(以下「人事制度研究会」という。)を発足させ,金融環境が厳しい中での新しい銀行に相応しい人事制度及び賃金体系のあり方について検討を行った。
昭和53年9月には大綱の答申がされたが,これはその後「21世紀への飛翔」として公表され,全行員に配布された。
それによると,第1審被告においては,昭和52年4月の段階では,40歳以下の男子行員が896人であるのに対し,41歳以上の行員が539人であったが,毎年20人の新規採用があると仮定すると,10年後の昭和62年4月には,40歳以下の男子行員612人に対し,41歳以上の行員が887人となり,中高年層が厚くなると予想され,このような人材構成の高齢化に従い,現行役職制度の下で,働きに応じた公正な処遇をしようとすればする程,役職経験者が加速度的に増え続け,その結果,管理職の肥大化現象が顕著となってくること,現行の賃金体系は基本的には年功序列型賃金体系であるので,行員各層個々人の働きに応じた公正な賃金配分という面で大きな壁に突き当たり,5年後には約2億7000万円,10年後には約5億3000万円の人件費が増加し,第1審被告にとって大きな負担となること,さらに,人材構成の高齢化は活動力の面での低下が否めず,従業員にとっても役職者が多過ぎて,本来的な役職者としての仕事が与えられず,その結果,行うべき仕事がないためモラルが低下することが懸念されること等の問題点が指摘されている。
そして,このような問題を解決するために,他行に比較して低い女性比率を増やし,男女構成比の改善に取り組むことにより,人件費の負担軽減を図るのみならず,組織あるいは資格制度を見直すことが必要であり,賃金構造について本給と職能給に分けて,本給については年齢別に50歳までは定期昇給とし,職能給については職階別に考課による査定昇級とする,管理職
手当についても整理することなどの提言がされている。
(6)その後の検討過程は次のとおりである。
アこの人事制度研究会で提起された問題をさらに具体的に検討するため,人事部のスタッフと労組の執行委員から成る「みちのく銀行労使専門委員会」(以下「労使専門委員会」という。)が発足した。
そして,昭和54年12月に出された答申において,選択定年加算金制度を新設するとともに,現行の資格,役職,管理職の三本体系を資格体系と役職体系にするとともに,専門職制度による新組織体系を新設し,管理職定年制を導入すること,賃金体系については,人材構成の高齢化に伴う下方硬直化を避け,より公平な賃金配分を行うとの観点から,先の人事制度研究会の意見に沿った改正をすることを提案した。
イ第1審被告は,前記のような労使専門委員会の答申を受けて,昭和55年4月から選択定年加算金制度を実施し,昭和57年1月には役職制度運用規程を制定するとともに,給与規程を改定・実施した。
ウそしてさらに,昭和57年3月,中高年対策問題にしぼって検討するため,人事部のスタッフと労組執行部委員から成る「みちのく銀行中高年対策労使専門委員会」を発足させた。
同委員会は調査役以上の全行員を対象としたアンケート調査の結果を踏まえ,昭和58年12月に答申を出した。
この答申では,5年後の昭和63年4月には44歳以下の男子行員より45歳以上の男子行員の数が増え,10年後の昭和68年4月には45歳以上の中高年層の男子行員の割合が54.1パーセントになると予想し,企業活力の維持向上のためには,組織の活性化が不可欠であり,そのためには,55歳程度を目処にした管理職定年制を導入し,管理職定年時以降の進路については専門職と専任職を新設していずれかに配置すること,管理職定年時以降の賃金については基本給水準確保を前提としながら現行体系とは分離し,担当する業務の実態を見ながら,新しい賃金体系の導入を図っていくこと,選択定年加算金制度については適用開始年齢の引下げと乗率の引上げについて検討すべきことなどを提言した。
エさらに昭和58年6月,第1審被告は,経営課題である高コスト・高利回りという体質から脱却するための方策の検討を目的として,経営者側からは専務取締役ほか支店長クラス4名,労組側から執行委員長ら執行部役員5名から成る「経営体質委員会」を発足させた。同委
員会は,様々な角度から問題を取り上げたが,検討状況をその都度「経営体質委員会ニュース」として全行員に配布した。
同年12月29日発行のニュースでは,第1審被告の抱える問題として,中高年者層を中心とした人材偏在化があるとした上で,「人材の高齢化は,現行賃金制度上総額人件費の増加はもとより,世代間の賃金配分の偏在化といった形をとりながら,行員処遇と行員モラールに大きな影響を与える。」「資金量拡大が,今日の経済環境下で大幅な増加が期待できないことを考えあわせると,高齢化への的確な対策をせず人件費の制度的累増を招くことは,体質強化に向けての全役職員の努力を無にすることになりかねない。」とし,その対応策を模索していく必要がある旨の記事が掲載されている。
(7)以上のとおり,第1審被告は,各種研究会,委員会を通じて第1審被告の経営上の問題や対策等を検討してきたが,昭和50年代末に至っても,人件費率が他行に比して際立って高いという体質は改善されておらず,人材構成の高齢化に伴う人件費配分の是正は避けて通れないものと判断し,昭和60年3月23日,労組に対し,「体質強化のための人事諸施策」として,55歳到達時以降の賃金水準は他行なみ(54歳時の賃金の40ないし50パーセントとする。)にしたいとの第1審被告の考え方を示し,協力を要請した。
また,第1審原告らが属する従組に対しても,同年4月2日の団体交渉において,同様の説明をし,協力を求めた。
これに対し,労組は,前記提案について,組織内部で検討を重ね,昭和61年1月20日の労使協議会において,「55歳時点で賃金据え置き」「許容できる賃金の削減幅は2030パーセントが限度」などの修正意見を出した。
他方,従組においては,55歳以上の行員の賃金体系等の変更について絶対反対であって,全面撤回を求めるとの立場に終始し,内容に立ち入って是非を論ずるような状況ではなかったため,第1審被告との間でも,具体的な意見交換がなされないまま経過した。
(8)このような経過の後,第1審被告は,労組に対しては昭和61年1月30日,従組に対しては同年2月3日,「年齢55歳以上の賃金体系のあり方について」と題する文書をもって修正の提案をした。
その内容は,満55歳以上の行員の基本給を凍結し,満55歳に達した管理職階者は,原則として翌月1日以降は別途創設する専任職とし,従前
の役職から外れ,また,専任職の賃金は直前役職時の基本給に諸手当(直前職の管理職手当・役職手当を除き,専任職手当を加える。)を加えたものとし,実施時期を同年4月1日とするというものであった。
そしてさらに,労組に対しては同年3月31日,従組に対しては同年4月3日,「体質強化のための人事諸施策について」と題する書面をもって,具体案を提示した。
(9)労組は,これを受けて内部で検討した上,第1審被告の前記提案を了承することとし,同年4月28日の労使協議会において,第1審被告の提案のとおり給与体系を改定し,対象者を一般職行員とする当初の専任職制度を導入することを応諾し,同日協定書に調印した。
なお,同時に,第1審被告と労組間で選択定年加算金制度を再制定すること,行員住宅融資制度について満50歳以降はいつでも返済額を減額し,60歳定年時に残額を一括して返済することができる旨改定することなども合意された。
これに対し,従組との間では,同年2月25日及び同年3月27日に行われた団体交渉において前記問題が議題にあげられたが,実質的な議論に至らず,同年4月3日の具体的提案後も前記の問題についての団体交渉が行われたものの,従組が専任職制度について反対の立場を貫いたため,結局,従組との間では合意の成立を見ないまま,同年5月1日から当初の専任職制度が実施された。
なお,第1審被告において,昭和62年3月当時,行員総数2095名であるところ,従組に所属する行員の数は24名(1.1パーセント),労組に所属する行員の数は1567名(74.8パーセント)であった。
2当初の専任職制度実施後の状況及び新専任職制度導入の経過等について前記争いのない事実及び証拠(甲2,8,9の1,2,甲10ないし24,31の1ないし3,87,102の2,3,201,乙2の2,3,乙6ないし9の各1,2,乙10,乙16,17の各1ないし3,乙18の2,乙20,22,23,乙45,46の各1,2,乙47,48,原審証人P7,同P8,同P9,同P10,当審証人P11及び同P12)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(1)昭和60年版大蔵省銀行局金融年報は,我が国の金融が構造的変化を遂げつつあるとし,「自由金利商品の拡大により金利の自由化が進むとともに,金融業務が多様化し金融機関等の業際間の垣根も漸次低くな
るなど,金融の自由化は着実に進展しつつある。」と総括しているように,その年には,市場金利連動型預金(MMC)の発行枠の拡大や大口定期預金の金利自由化が実施された。
このような金利自由化の進展は,支払利息を増加させ,銀行の収益を圧迫する要因として作用することが予想され,とりわけ,小口預金の比重が高い地方銀行,第二地方銀行,信用金庫では,その影響を大きく受けることが予想された。
他方,昭和50年代後半から始まった銀行業務の自由化,金融市場の国際化の進展の中で,国際的に銀行システムの安定性の向上を図り,国際的に活動している銀行間の競争条件を平等なものとするため,銀行において自己資本比率規制の国際的統一を図ることが必要であるとされ,昭和62年ころからその検討が進められた。
その後の昭和63年7月15日には,バーゼル銀行規制・監督委員会において,自己資本比率規制の国際的統一を図るための基本的枠組みが合意されている。
そして,前記合意に基づいて,大蔵省は,同年12月22日付けの通達で,海外拠点を有する銀行の自己資本比率を,平成5年3月末以降は8パーセント以上を目標とすると改めた。
第1審被告は,昭和62年12月に東京証券取引所の第2部に,平成元年には同取引所の第1部にそれぞれ上場したが,これは,自己資本を充実させるために,上場により新たな資金調達の途を図ることを狙ったものである。
(2)ところで,昭和61年5月1日に実施された当初の専任職制度によって専任職に発令されたものは約97人であり,賃金の削減率は,年収720万円の場合,ほぼ10パーセント程度であった。
昭和62年11月1日付けで専任職に発令された第1審原告P1の場合,発令前の年収が719万7000円であり,発令後の年収が655万9200円となった(この点は当事者間に争いがない。)のであるから,約8.9パーセントの削減である。
しかしながら,同年9月の調査による第1審被告の55歳以上の従業員の賃金水準(年収)を,すでに定年延長をしていた同業他行(青森銀行,岩手銀行,東北銀行)及び東北地方銀行の平均値と比較すると,本判決別紙10のI表A欄ないしE欄記載のとおりであって,当初の専任職制度導入後も,第1審被告が非常に高い水準を維持していたことが明らかである。
また,同年度の年齢別人員分布を青森銀行,秋田銀行及び岩手銀行と比較したものが本判決
別紙10のII表aであって,第1審被告における人材構成の高齢化が顕著である。
なお,5年後の平成4年(すなわち新専任職制度導入後)における年齢別人員分布は,同表bのとおりであるが,その傾向に変化はなく,ことに55歳以上の高齢層比率が他行に比較して格段に高いことが明らかである。
当初の専任職制度導入自体による財政的な効果は,初年度で5800万円程度であり,構造的問題の解決は,先送りされていたという他はない。
他方,前記原判決別紙9によって,その後の銀行の経営効率を示す諸指標を見ると,第1審被告の昭和61,2年度における貸出金利回り,資金調達原価とそのうちの預金利回り,経費率(人件費率,物件費率),行員1人当たりの預金量等平均残高,行員1人当たりの経常利益については,合併以来10年間のそれと比較し,各項目とも多少の順位を上げてはいるものの,全国地方銀行中の順位は,依然として最下位グループを低迷していたことが容易に看て取れる。
これに対し,1人当たりの人件費そのものは,昭和61,2年度において,東北地方銀行はもとより,全国の地方銀行の平均値と対比しても高額である。
また,経常利益は,昭和60年度が約30億円,昭和61年度が約46億円と上昇しているが,青森銀行には約20億円の差をつけられており,しかも,総資金利鞘が低いため,決して良好な経営体質とはいえない状況であった。
(3)以上のような状況を踏まえ,第1審被告の経営者としては,当初の専任職制度では十分でないと考え,その見直しを検討する必要に迫られた。
そこで第1審被告は,昭和62年5月28日,労組及び従組に対し,同年度の賃金引上げ等の要求に対し,「55歳以上の賃金水準のあり方を含む新賃金体系を再構築し来年度から実施する」との条件を付けたうえで,賃金引上げ等について回答した。
これに対し,労組は前記回答を受け入れたが,従組は条件を付けることに応じなかったため,従組との間では前記条件を除いた形で賃金引上げについて合意された。
その後第1審被告は,同年7月下旬ころ,労組との間では労使協議会の場において,新しい人事制度を作ることを話題にし,従組との間では団体交渉の席上,その旨の使用者側の考え方を示した。
そして,同年9月7日,第1審被告は,労組及び従組に対し,「人事制度の改定について」と題する書面を交付し,コース別人事管理制度の導入を提案し,その中で,当初の専任職制度を次のように改定したいと提示した。
ア身分について
満55歳に達した一般職行員及び庶務職行員は,翌月1日付けをもって原則として全員専任職体系へ移行する。
イ給与について
1専任職発令とともに,「業績給」を一律50パーセント減額する。
2専任職手当を廃止する。
3賞与(年間)を次のとおりとする。
参事(基本給+家族手当)×400パーセント
副参事(基本給十家族手当)×350パーセント
主査・主事・庶務職(基本給+家族手当)×300パーセント
ウ昭和63年4月1日から実施する。
但し,当該者の生活プランを勘案し,5年間の経過期間を置く。経過措置については,追って提示する。
エ担当職務について,今回の処遇面の改定に際し,特に,次の点について徹底を図ることとする。
すなわち,専任職の職務については,54歳までの職務経験,保有能力を勘案し,自己完結型の特定業務又は専門的業務に従事させ,移行以前と全く同じ仕事は与えないものとする。
(4)前記提案の理由として,第1審被告は,「金融の自由化・国際化の進展に伴い,経営環境は一大変革期を迎えている。
この中で,銀行業務は必然的に高度化・多様化の様相を呈しているが,かかる変革期にあって,当行が新たな前進をしていくためには,新しい時代に対応した新しい人事制度の構築が求められる。」とし,「当行の場合,60歳定年制の関係から高年者層への人件費の偏在化という構造的課題がある。
人員構成の高齢化に伴い,この傾向は年を追うごとに顕著となり,結果として総人件費を圧迫し,企業の発展と活力の中核を担う若手・中堅に対する処遇が極めてバランスを欠いたものとなっている。
一大変革期を迎え,それぞれの職務の役割期待がこれまでの延長線上にはない今日,年齢や勤続年数に基づく年功的処遇は見直しを迫られている。」と説明している。
そして,前記提案にかかる賃金の減額幅については,これを完全実施した場合の賃金(年収)が別紙10I表のF欄記載のとおりであって,これを東北地方銀行の平均値と比較すると,同表G欄記載のとおりの開きがあり,第1審被告の方がなお30パーセント以上の高水準にあること,昭和62年の青森県における全産業平均年収が約362万5000円であること(青森県経営者協会発表のもの),青森市における勤労者世帯の家計消費支出額が約327万6000円であり(大蔵省
青森財務事務所発表のもの),4人世帯の年間標準生計費が約279万0360円であること(青森県人事委員会発表のもの)等に照らしても,55歳以上の従業員の賃金としては,決して遜色のないものであること等との判断によるものである。
(5)これに対し,労組からは,労使協議会の席上等で質問や要望が出されたため,第1審被告は,同年12月18日,労組に対し,「『新人事制度に関する貴組合からの質問事項』に対する回答並びに『新専任職制度についての追加提案』について」と題する書面を交付した。
その中で,第1審被告は,専任職制度改定の理由として,「ここ数年,当行では,定年60歳に伴う高齢化が顕著になったにもかかわらず,抜本的な構造改善を行わないままに,年々の賃金を実施してきた。
この結果,11人当たり人件費では東北地銀のトップクラス,255歳以上の賃金は全国でも例のない高い水準,354歳以下,とりわけ大きな役割期待が寄せられている管理職や能力の進展が著しい係長代理クラスでは年収において格差が生じてきている。
最早こうした対応の仕方では,単にコストの面からばかりではなく,全体のモラールという面からも限界に達しているというのが,今回の制度改定の理由である。」と説明している。
そして,この書面の中では,追って提示するとされていた業績給50パーセント減額と専任職手当の廃止についての移行措置について具体的に提案されている。
第1審被告は,同日,従組に対しても,「新専任職制度についての追加提案」と題する書面を交付した。
(6)さらにその後,第1審被告は,昭和63年2月12日,労組及び従組に対し,修正の提案を行ったが,最終的に同年3月23日,第1審被告と労組との間で,満55歳に達した一般職行員及び庶務職行員は,翌月1日付けをもって原則として全員専任職体系へ移行すること,専任職の基本給のうち業績給は原判決別紙2「基本給」欄記載のとおり段階的に削減し,昭和67年度以降は満55歳時の50パーセントにすること,専任職手当も同じく「専任職手当」欄記載のとおり段階的に削減し,昭和67年度以降は廃止すること,賞与についても支給率を同じく「賞与」欄記載のとおり段階的に削減し,昭和67年以降は200パーセントとすること,そして以上のような新専任職制度を同年4月1日から実施することを合意し,協定書に調印した。この協定書には,新専任
職制度実施に伴う代償措置として,次のような関連諸制度の改定又は新設の条項が記載されている。
ア選択定年加算金制度の改定
選択定年加算金の支給算式(加算金額=基本給×支給乗数)の支給乗数を現行より5ないし10ポイント引き上げる。
イ行員特別融資制度の新設
専任職行員の冠婚葬祭等に係わる出費に対し,その援助を目的として特別金利によるローンを新設したものであり,専任職行員は,300万円以内の金員を,利息年4パーセント,返済期間が5年以内という条件で第1審被告から借り受けることができる。
ウ行員住宅融資制度の改定
行員住宅融資制度の返済猶予の方法について,現行の規定に加えて,審査の上満55歳に達した者は融資残高について元金の返済を定年退職時に一括返済することもできるという規定を新設する。
エ企業年金制度の改定
専任職の賃金減額に伴い年金水準が低下するため,その補完を目的として,企業年金に関して,年金額を月額6万5000円(現行は6万円),掛金の銀行負担月額を1万2390円(310円増),行員負担月額を2700円(180円増)と改定する。
(7)これに対し,従組は,新しい専任職制度の実施にはあくまでも反対であるとの立場を取り続けたため,結局,第1審被告と従組との間には新専任職制度についての合意は成立しなかった。
(8)以上のような経緯を経て,第1審被告は,昭和63年4月1日,新専任職制度を実施した。
同時に改定作業が行われていたコース別人事管理制度が実施されたのは,平成元年10月1日である。
なお,昭和63年3月の段階において,第1審被告の行員数は2019名であるところ,このうち労組に所属する行員が1482名(73.4パーセント)であり,従組に所属する者が23名(1.1パーセント)であった。
3第1審被告の就業規則等とその変更について
各専任職制度導入の経緯と背景事情については,以上見たとおりであるが,各制度の導入は,第1審被告の就業規則等の変更(改定)を伴うものである。
この点については,証拠(甲201,213ないし236の各1,2,乙1,2の各1ないし3,3の1,2,乙5,10,44の1ないし3,原審証人P8)によれば,次のとおり認められる。
(1)第1審被告において,当初の専任職制度導入前の就業規則では,行員とは第1審被告に勤務する職員(一般職行員,庶務職行員,雇い人,嘱託,臨時雇用者及び試雇者)のうち,一般職行員,庶務職行員及び試雇者をいい,行員の給与については,別に定める給与規程によるとされ,これに基づき「給与規程」が定められている。
また,就業規則上に明文はないものの,その性質上就業規則の一部と認められるものとして,行員の処遇を適切かつ公正に行い,行員自らの能力の開発を促進し,もって銀行の業績発展に資することを目的とする「役職制度運用規程」が存在する。
(2)前記役職制度運用規程によれば,職階とは,「職務を遂行するに必要な知識技能など,職務遂行能力の共通性,類似性及びその程度によって職務をグルーピングしたもの」をいい,職階を管理職階,監督職階,一般職階及び庶務職階に分類する。
管理職階は,専門知識と経験及び管理能力を有する組織単位の長又は次席の職位で,具体的な職務は部店長,副部店長,次長,課長であり,監督職階は,一般事務職の上位に位し,上位管理者の指示や基準規程に準拠し,下位の事務職担当者の業務遂行作業を指導・点検・改善する職位で,具体的な職務は係長,主任であり,一般職階は,上位者の指導・監督のもとに定型的日常業務を反復遂行することを主要職務とする職位で,具体的な職務は営業係,融資係,渉外係であり,庶務職階は,所属長の指導・監督のもとに一般的な銀行業務以外の作業及び事務を遂行することを主要職務とする職位であり,具体的な職務は自動車運転手,電話交換手,タイプ,用度係などである。
(3)そして,役職制度運用規程においては,役職とは,「各職階の各職務を遂行するために必要な能力の水準に基づき,能力基準の段階として設定したもの」をいうとされ,一般職行員については,一般職職階にあるものが役職として事務職(初級,中級,上級)に,監督職階にあるものが役職として主任,係長(初級,上級)に,管理職階にあるものが役職として代理(初級,上級),調査役(初級,上級),主任調査役(初級,上級)に,それぞれ分類され,庶務職階については,役職として庶務職(初級,中級,上級)に分類され,各役職に対応する職務及び能力との関係については「役職別職務職能基準書」のとおりとされている。
(4)次に給与規程においては,行員の給与は,1本給と業績給とから成る基本給,2主任以上の役職者に対して支給される役職手当,管理職を発令された者に対し役職手当とともに支給される管理職手当,扶養
家族のある行員に対し支給される家族手当等から成る諸手当,3業績その他を勘案して,支給額,支給日,支給方法についてはその都度定める賞与等からなると定められていた。
(5)当初の専任職制度の実施に伴う就業規則等の変更(以下「本件第1次変更」という。)は,次のとおりである。
ア行員とは,第1審被告に勤務する職員(一般職行員,専任職行員,庶務職行員,傭人,嘱託,臨時雇用者及び試雇者)のうち,一般職行員,専任職行員,庶務職行員及び試雇者をいうと改定された。
イ役職制度運用規程も改定され,職階を管理職階,監督職階,事務職階,庶務職階の他に,専任職階を新設し,専任職階とは,「所属長が指示する特定の業務又は専任的業務を遂行することを主要業務内容とする職位をいう」と定義し,その具体的な職務については,「特定の集中業務,特殊債権の管理業務,特殊先の渉外業務ほか」を行うものとした。
また,役職について,前記の一般職行員と庶務職行員における各分類のほか,専任職行員について,役職として専任職(その内容は主事,主査,副参事,参事)を定めた。
そして,一般職行員が満55歳に達したときは,原則としてその翌月1日をもって専任職に格付けするとし,その格付は直前の役職により,1主任調査役・調査役が参事に,2代理が副参事に,3係長・主任が主査に,4事務職が主事にそれぞれ移行する旨規定された。
ウ給与規程も改定され,1満55歳到達者の基本給は,当月末の基本給をもって翌月1日で凍結する,2専任職に発令された者に対し専任職手当を支給するとし,主査には,従前主任であった者には1万5000円,係長初級であった者には2万5000円,係長上級であった者には2万6000円が,副参事には3万円,参事には4万円がそれぞれ支給されることになった。
(6)新専任職制度の実施に伴う就業規則等と賞与の支給率等の変更(以下「本件第2次変更」という。)は,次のとおりである。
ア就業規則の文言上の変更はない。
イ役職制度運用規程については,庶務職行員が専任職に格付けされるときは専任庶務に移行する旨の規定が挿入された。
ウ給与規程については,満55歳到達者の業績給につき,当月支給額の50パーセント相当額とし,翌月1日から適用する,ただし,5年間の経過期間を設け,昭和63年度が90パーセント,昭和64年度が80パーセント,昭和65年度が70パーセ
ント,昭和66年度が60パーセントの支給率を適用するとした。
また,専任職手当については,専任職を発令された者に対し所定の手当を支給するとしたものの,昭和63年度から5年間で漸次減額し,昭和67年度にこれを廃止する旨改定された。
なお,平成元年に至って,前記コース別人事制度が実施され,第1審原告ら主張のとおり,専任職以外には平成元年10月から翌2年3月まで本給調整金や役職手当調整金が支給されている。
エ賞与については,給与規程では,「賞与の支給額,支給日,支給方法については,業績その他を勘案し,その都度定める」とし,「賞与額の決定にあたっては支店業績に対する連帯責任としての『店舗業績』と個々人の職務責任遂行度による『個人業績』の二つを考課基準とし,各々役職・専任職・管理職に応じ,メリット支給する」としていて,文言上の変更はなく,「メリット支給」の基準となる考課方法の定めにも変更はない。
このように,賞与の具体的な支給額は,給与規程そのものには定めがなく,銀行全体の業績と考課によりその都度決められるものとされているが,従前の運用は[(基本給+家族手当)×300パーセント+α(業績メリット)]の算式によって算出されていた。
第1審被告は,新専任職制度の実施に伴い,これを原判決別紙2「賞与」欄記載のとおり改めた。
なお,専任職制度実施後も,各年の賞与の支給算式は,それまでと同じく毎年の春闘における労組や従組の要求に対する回答の形式で第1審被告から示され,労組との間ではその回答に従って労働協定が締結され賞与が支給されていたが,従組との関係では,上記回答に対して毎年従組から,専任職制度の実施に伴う賞与支給算式の改定には同意できない旨昭和61年10月に第1審被告に通知済みであり,今期の臨時給の支給算式についても継続交渉とし,今回のみの回答として受け取る旨の通知がなされて,その回答の支給算式による賞与の支給がなされていた。
4本件第1次変更及び本件第2次変更による第1審原告らに対する賃金削減額及び専任職発令後の職務内容について
(1)第1審原告らに対し各専任職の発令があったことは前記のとおりであるが,証拠(甲116,117,129の2,131の1,2,141の1ないし13,甲182の1,2,183の1,2,184ないし200,213ないし236の各1,2,原審第1審原告P1本人,当審同
P5本人)並びに弁論の全趣旨によれば,第1審原告らが,本件第1次変更及び本件第2次変更により,各専任職の発令から各定年退職するまでの間に第1審被告から受領した賃金額(定例給・賞与。
定例給には専任職手当を含む。)及びこの間に専任職発令がなく,したがって新専任職制度の適用を受けなかったと仮定した場合に受領することができたはずの得べかりし賃金額(ただし,標準査定がなされたと仮定した場合である。
以下この賃金額を「得べかりし標準賃金額」という。)は,それぞれ次のとおりである。
すなわち,第1審原告P1については,原判決別紙3(一),(二)記載のとおりである。
ただし,前記第2の3(6)ウ認定のとおり,コース別人事制度の導入により本給調整金1500円の支給が前記認定の期間専任職以外の行員についてなされており,これにより平成元年の賞与の支給額も4500円増加していることから,それだけ差額金が増加している。
また,給与規程により同原告退職後の賞与支給期に同原告主張のとおり賞与の差額支給を受けている。
第1審原告P2,同P3については,原判決別紙4,5の各(一),(二)及び本判決別紙1,2(一),(二)記載のとおりである。
ただし,同原告らも,同別紙記載よりも上記調整金分の差額金が増加する(同P3の場合はさらに役職手当調整金月額3000円分の差額が増加する。)こと,また,同原告らも退職後の賞与支給期に賞与の差額支給を受けていることは,同原告ら主張のとおりである(なお,第1審被告は,第1審原告P2の平成6年6月支給の賞与は42万5364円と,また,同P3の同年12月支給の賞与を4472円と主張するが,いずれも同原告らの主張金額が多く,その自認する金額に従った。)。
その余の第1審原告らについては,原判決別紙6ないし8の各(一),(二),本判決別紙3ないし5の各(一),(二)及び同6ないし8記載のとおりである(当該原告らも,同別紙6ないし8記載のとおり退職後の賞与支給期に賞与の差額支給を受けている。)。
ただし,第1審原告P6が平成4年6月支給された賞与額は,第1審被告主張のとおり91万8733円とする(この金額に争いがなかったところ,同原告はその後89万8733円と変更したが,その根拠が明確でないため)。
以上認定の結果により,本件第1次変更及び本件第2次変更による第1審原告らに対する各賃金削
減額や同原告らの各賃金減額率(その全部が必ずしも本件就業規則等変更によるものではないことは,後記説示のとおり。)をまとめると,本判決別紙9記載のとおりとなる。
なお,本件訴訟の経過に照らすと,第1審被告は,第1審原告らがその受領した各賃金を本件就業規則等変更により削減された賃金であるとしている点,標準査定に基づいて差額賃金を算定している点を争っており,第1審原告ら主張の差額金について自白が成立したとは認められない。
(2)次に第1審原告らの職務内容についてみると,前記争いのない事実及び証拠(甲38ないし42,137,138,原審証人P8,同第1審原告P1及び当審同P5各本人)並びに弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。
ア第1審原告P1
専任職発令前は,β支店において出納(店頭混雑時における大口,複雑入出金等の取引,渉外係集金及び貸付係などの取次,庶務係などの直接顧客に関係ない内部発生の現金取引を扱う。)兼テラー(一般の窓口発生収支取引を扱う。)を担当していたが,専任職発令後はテラーのみの担当となった。
その後一時,出納兼テラーの仕事に戻ったが,渉外係として集金を中心とした仕事になり,平成4年10月定年退職した。
イ第1審原告P2
専任職発令前は,β支店において営業課長の職にあり,専任職発令後1か月間は,同支店において営業課長の職務の一部を代行するとともに検印事務の代行も行っていたが,その後,δ支店に転勤となり,融資課長の下で融資業務を担当し,平成6年2月定年退職した。
ウ第1審原告P3
専任職発令の前後を通じて,γ支店において出納業務を担当していたが,平成6年4月定年退職した。
なお,同支店は小規模店であって,出納業務の事務量自体,さほど多くはなかった。
エ第1審原告P4
専任職発令前は,ξ支店において渉外課長の職にあったところ,専任職発令により渉外課長から外され,同支店において渉外業務を担当していたが,2か月後にε支店に転勤となり,同支店でも渉外業務を担当していた。
そして,平成8年1月定年退職した。
オ第1審原告P5
専任職発令前は,ζ支店において融資課長の下で(役職は代理),融資受付,延滞手形期日管理などの各種管理業務,一部検印業務の代行を担当していたが,専任職発令後は,検印代行の権限はなくなったものの,引き続き融資受付,各種管理業務を担当し,平成5年に規模
の小さいθ支店に転勤となり,さらにその後,λ支店に転勤となり,渉外業務を担当していた。
そして,平成8年1月定年退職した。
なお,ζ支店における担当業務の項目は多岐に亘っているが,3,4年の融資実務の経験があれば,おおむねこなしていけるものである。
カ第1審原告P6
μ支店において,専任職発令の前後を通じて出納を担当しているが,専任職発令後は,検印代行の担当からは外されていた。
そして,平成8年11月定年退職した。
5専任職制度導入による人件費削減効果等について
証拠(乙45の1,2,48,49の1ないし4及び当審証人P11)によれば,専任職制度導入による人件費削減の効果は,年度により異なるが,完全実施された平成4年度には約10億円に上ること,しかし,人件費そのものは昭和62年度の134億円から平成4年度の142億円に増加しており,その間に,昭和62年までは東北の同規模地方銀行の中では下位に属していた40歳から50歳までの中堅層の賃金について格段の改善が行われていることが認められ,組織改革の実が進んでいることが窺われる。

第3本件就業規則等変更の効力について

1就業規則変更の効力の判断基準については,原判決54丁表末行冒頭から同55丁表5行目末尾までに記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,その引用文の次に「その合理性の有無は,具体的には,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」を加える。)。
第1審被告においては,前記争いのない事実のとおりその発足時から60歳定年制を採用していたのであるから,第1審原告ら行員が55歳以降にも所定の賃金を得られるということは単なる期待にとどまるものではなく,該当する行員の労働条件の一部となっていたということができるところ,第1審原告らは,前記認定のとおり,本件就業規則等変更の結果,専任職に発令され,基本給の凍結,その発令後の業績給の削減,役職手当及び管理職手当の不支給並びに賞与の削減(ただし,その全部が本件就業規則等変更によるものでないことは後述のとおり)をされたものあって,本件就業規則等変更が第1審原告らの重要な労働条件を不利益に変更する部分を含むことが明らかであるから,以下前記見地に立って,本件就業規則等変更の効力について検討する。
2本件就業規則等変更の必要性について
前記認定の事実によれば,第1審被告は,昭和51年に合併して以来,その経営効率を示す各種指標が高コスト,高利回りで収益力が弱いという企業体質を示しており,ことに人件費率は全国地方銀行中で最悪あるいはそれに近い順位となっていたが,その原因は,他の地銀においては,55歳定年制を採用していたことから,必然的に同年令以上の行員の割合が小さく,その賃金水準も低レベルであったのに対し,60歳定年制を採用している第1審被告においては,中高年層を中心とした人材構成の高齢化により,役職経験者が加速度的に増え,管理職の肥大化現象が顕著となっていることにあることが,既に昭和53年の人事制度研究会において指摘されていたこと,したがって,昭和50年代後半から進展した金融の自由化という,金融機関間の競争が進展しつつある厳しい経営環境の中で,人材の高齢化に伴い増大する人件費を削減し,賃金配分の偏在化を是正するとの観点に立った組織改革を行うことは,第1審被告の経営者にとって,まさに10年来の懸案事項であり,避けて通れない問題となっていて,多くの行員も同様の認識であったことが認められ,本件就業規則等変更は,第1審被告にとって高度の経営上の必要性に基づくものということができる。
本件全証拠によるも,当時第1審被告の経営が,危機的状況に陥っていたと認めるに足りる証拠はないが,いったん銀行の経営が危機に瀕した場合には,信用不安を惹起し,組織改革だけでは容易に再建できない事態となることは明らかであるから,そのような危機的状況に至らなければ組織改革の必要性がないとすることは到底できない。
なお,第1審原告らは,第1審被告が,当時順調に収益を伸ばし,利益も増大させており,その経営分析からも本件専任職制度を導入する必要はなく,したがって,本件就業規則等変更の必要性もなかったと主張するところ,証拠(乙45,46の各1,2)によれば,確かに昭和59年から同62年にかけて,第1審被告の経常利益は32億円から39億円と伸びてはいるものの,同じ地方で競合する青森銀行には約10億円の差をつけられていることが認められるので
あり,第1審被告が,他行との比較において,高利回り,高コストという脆弱な企業体質にあったことは前記説示のとおりであるから,当該主張及びその主張に沿う当審証人P13の証言及び甲168の記述は採用できない。
3本件就業規則等変更の合理性について
(1)専任職制度導入の合理性
専任職制度導入による本件就業規則等変更は,まず,55歳到達を理由に行員を管理職階又は監督職階から外して専任職階に発令するものであるが,事業の効率的遂行のためどのような企業組織を編成し,どのような労働者を配置するかは,広い意味での使用者の人事権に属する事項であると解されるところ,前項説示のとおり,第1審被告においては組織改革の必要があったと認められるのであり,その人事権の行使としてなされた本件就業規則等の変更は,これに伴う賃金の減額を除けば,その対象となる行員に格別の不利益を与えるものではないから,職階及び役職制度の変更に限ってみれば,その合理性を認めることができる。
第1審原告らは,第1審被告の業務の中で,「特定の集中業務,特殊債権の管理業務,特殊先の渉外業務」なるものは独立して存在せず,現に専任職発令の前後において職務内容が同一の場合があるし,55歳になっても専任職に発令されない行員も多数存するから,この制度を導入する必要性はなかったと主張して,その導入の合理性に疑問を呈している。
確かに,第1審原告らにおいては,専任職発令の前後を通じてその職務内容がほぼ同じであったことは前記認定のとおりであるが,役職運用規程や労組及び従組に対する説明書(乙1,2の各2,乙7,8の各1,2)によれば,専任職の職務は,軽易かつ定型的な業務として位置付けられ,施行されていることが認められるのであり,証拠(乙52ないし56,当審証人P12)によれば,本人の希望等から,上記のように職務内容が軽減されない場合でも部下の管理監督を伴う業務は担当させないこととされていること,また,専任職発令が,満55歳到達時から若干ずれたケースや,満55歳を過ぎても発令されず,部長や支店長等の職にとどまるものも十数名存在するが,それらは,いずれも個別事情に基づく例外的措置であることが認められる。
そうだとすると,第1審原告ら指摘の事実をもって,制度そのものの合理性を否定することは相当でない。
(2)第1審原告らの被る賃金減額の不利益の程度と賃金減
額の相当性
ア本件第1次変更及び本件第2次変更による賃金面の改定及びこの変更による第1審原告らに対する賃金削減額は前記第2の3,4(1)認定のとおりであって,基本給の凍結により,他の行員の基本給等が増額されても,55歳以上の者の賃金は増額されず,専任職発令後は,基本給の約半額程度を占める業績給が50パーセント削減され,3万ないし12万円程度とかなりの額である役職手当及び管理職手当も支給されなくなり(その代わりに,当初専任職手当が支給されていたが,それも昭和63年度から5年間で漸次減額し平成4年度で廃止することに改定され,実施された。),かつ賞与の額もその支給率を300パーセントから200パーセントに削減された。
なお,業績給や賞与支給率の削減についても,専任職手当と同様の経過措置が設けられたが,それは,各年度ごとに一律に削減率を定めたものであって,一定の実施猶予期間をおいたり,各行員が55歳に到達した年度から徐々に削減率を上げていくなどといったものではない。
こうした変更による賃金の減額幅は,55歳に到達した年度,従来の役職,賃金内容等々によって異なるが,本件就業規則等変更により定められている経過措置が適用されなくなる平成4年度以降においては,得べかりし標準賃金額に比べて概ね40数パーセント程度から50数パーセント程度にも達している。
第1審原告らの年間賃金も,例えば,担当職務にほとんど変化のない第1審原告P6の場合で,当初の4か月間を別として,55歳到達直前の970万円程度から540万円程度に減じており,ほぼ全期間にわたって経過措置の適用を受けた第1審原告P1の場合でも,同じく720万円程度から退職時には420万円程度に減じており,元管理職であった第1審原告P2の場合にも,同じく800万円程度から退職時には420万円程度に減じている。
そして,得べかりし標準賃金額と比べた場合の第1審原告らに対する賃金の削減額は,専任職発令から退職時まで(ただし,給与規程により退職後に支給された給与及び賞与を含む。)の総合計で約1260万円ないし約2510万円となっており,その削減率は,同期間の平均値で約33ないし48パーセントにも達している(後記のとおり本件就業規則等変更によるものとは認められない賞与支給率の逓減や業績メリット分の不支給による賞与支給額の減額分を除くと,その場合の第1審原告らの賞与減額率は,約19パーセントから約37パーセント(ただし,第1審原告P1以外については,専任職発令当初の賞与を除く。)であるが,本件就業規則等変更による定例給だけの減額率は,約25パーセントから約41パーセントであり,それらの減額率は決して小さくない。)。
以上の減額幅は,考課等による格差に比べ格段に大きなものであって,その相当部分が本件就業規則等変更によるものと認められる。
イところで,第1審原告らが,このように賃金減額の不利益を受けても,これに相応した労働の減少が認められるならば,全体的に見た実質的な不利益は小さいということができる。
しかるところ,第1審原告らの所定労働時間等が,専任職発令前より短縮された事実は本件全証拠によるも認められない上,前記第2の4(2)認定の事実に照らすと,第1審原告らが,専任職発令後に従事した職務は,必ずしも軽易かつ定型的な業務として位置付けられるべき職務ではなく,第1審原告P1,同P3,同P5及び同P6は,専任職発令前後を通じてほぼ同じ職務を担当しており,第1審原告P2及び同P4も,課長職は解かれたものの,数十パーセントの賃金削減を正当化するに足りるほどの職務の軽減が現実に図られているとは到底認めることができない。
証拠(甲125,乙12の3及び当審証人P14)によれば,業績給とは,人事考課に基づき各役職別テーブルに従い決定されるものであって,職務遂行能力を発揮した度合に応じて支給される職能給たる性質を有するものであり,役職手当・管理職手当は,それぞれ役職・管理職にあることによって支給されるものであることが認められ,例えば,役職・管理職を外された以上は役職手当・管理職手当が支給されないのは当然といえなくもないが,それも本件就業規則等変更によるものである以上,その変更による不利益として考慮せざるを得ない。
そうすると,本件においては,労働の多少の減少面を捉えて,本件就業規則等変更による賃金面の不利益性を低く評価することは相当でないというべきである。
ウまた,前記第2の2(6)認定のとおり,本件第2次変更に際して,第1審被告と労組との間で代償措置が合意されているが,そのうち退職金の増額については,早期退職する場合の特例であって第1審原告らには関係しない。
企業年金については,第1審被告の負担する掛金が若干増額するけれども,これは賃金額の低下による厚生年金の水準の低下の一部を補うものにすぎず,これも賃金減額の代償措置と評価することはできないものである。
これに対し,特別融資制度や住宅融資に関する措置は,代償措置ということができるが,数十パーセントの賃金削減を補うような重要なものとは評価することができない。
したがって,これらの代償措置を考慮しても,第1審原告らの不利益が全体的に見て小さいものということはできない。
エ以上の検討によれば,本件第1次変更及び本件第2次変更により第1審原告らが被った賃金面における不利益は極めて重大であり,そのうち本件就業規則等変更による部分もその程度が大きいものと認めざるを得ない。
オ前記第2の4(1)認定のとおり,本件就業規則等変更後の第1審原告らの賃金は,減額により平成4年度以降約420万円程度から約530万円程度となるものの,この賃金額は,前記第2の2(2)認定の東北地方における他行の当時の給与所得者の平均的な賃金水準や定年を延長して延長後の賃金を低く抑えた一部の企業の賃金水準に比べてなお優位にある。
しかしながら,第1審原告らは,高年層の事務職員であり,年齢,企業規模,賃金体系等を考慮すると,変更後の前記賃金水準が格別高いということはできない。
しかも,第1審原告らは段階的に賃金が増加するものとされていた賃金体系の下で長く就労して50歳代に至ったところ,60歳の定年5年前で,賃金が凍結されるどころか逆に半額に近い程度に切り下げられることになったものであり,55歳定年を延長して延長後の賃金を低く抑える場合と同列に論ずることはできない。
本件就業規則等変更は,その変更の対象層,前記賃金減額幅及び変更後の賃金水準に照らすと,高年層の行員の労働条件をいわゆる定年後在職制度ないし嘱託制度に近いものに一方的に切り下げるものにほかならないというべきである。
カなお,本件第1次変更及び本件第2次変更により第1審被告の55歳以上の行員の賃金が減額される一方で,中堅層の行員の賃金については格段の改善が図られ,第1審被告の人件費全体も逆に上昇していることは前記第2の5認定のとおりである。
企業経営上,賃金水準を切り下げる差し迫った必要性があるというのであれば,各層の行員に応分の負担を負わせるのが通常であるが,本件は,そのようなものではない。
キところで,本件就業規則等変更は,前項説示のとおり多
数の行員について労働条件の改善を図る一方で,一部の行員について賃金を削減するものであるが,このような変更も,前記経営上の必要性に照らし,企業ないし従業員全体から巨視的,長期的に見れば,企業体質を強化改善するものとしてその相当性を肯定することができる場合もあり得るところである。
しかしながら,本件における賃金体系の変更は,短期的に見れば55歳以上の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせるもので,その負担の程度も前記説示のとおり大幅な不利益を生じさせるものであり,それらの者は,中堅層の労働条件の改善などといった利益を受けないまま退職の時期を迎えることになる。
就業規則の変更によりこのような制度改正を行う場合には,一方的な不利益を受ける労働者について,その不利益を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきところ,本件においては,前記説示のとおり,経過措置の適用にかかわらず大幅な賃金の減額がなされているところであって,救済ないし緩和措置として極めて不十分であると評せざるを得ない。
そうすると,第1審原告らとの関係において,賃金面における本件就業規則等変更の内容の相当性を肯定することはできない。
(3)労働組合との交渉経緯等と本件就業規則等変更の相当性
前記第2の1(9)及び同2(6)認定のとおり,本件においては,第1審被告の行員の約75パーセントを組織する労組が本件第1次変更及び本件第2次変更に同意しているが,第1審原告らの被る前記説示の不利益の程度や内容を勘案すると,賃金面における変更の合理性を判断するに際して労組の合意を大きな考慮要素とすることは相当でないというべきである。
(4)以上検討の結果によれば,専任職制度の導入に伴う本件就業規則等変更は,それによる賃金に対する影響の面からみて,第1審原告らのような高年層の行員に対しては,専ら大きな不利益のみを与えるものであって,他の諸事情を勘案しても,変更に同意しない第1審原告らに対し,これを法的に受認させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとは認めることができない。
したがって,本件就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は,第1審原告らにその効力を及ぼすことができないというべきである。

第4第1審原告らの請求額の当否について

1賃金請求について
(1)前項の説示す
るところによれば,業績給の削減並びに役職手当及び管理職手当の不支給(専任職手当で補てんされている部分は除く。)は,本件就業規則等変更による賃金の減額分というべきであるから,第1審被告は第1審原告らに対しその支払義務がある。
第1審原告P1,同P2,同P3が差戻後の当審において拡張請求している本給調整金及び役職手当調整金(ただし,後者は第1審原告P3のみ)の不支給額も本件就業規則等変更による基本給凍結の結果によるものと認められるから同様である。
平成5年の年度途中(別紙3ないし5の各(二)によると,第2業績給は平成6年4月から支給になっているが,平成5年12月の賞与では,この第2業績給も算定の基礎になっているので(甲229の1),それ以前から支給されていたことが窺われる。)から専任職以外の行員に支給されるようになった第2業績給も業績給の加算給であり,同様に考えることができる。
また,55歳に到達した時点以降における賃金の昇給額については,本件就業規則等変更がなければ支給されたと認められる額の限度で,賞与については本件就業規則等変更により賃金が削減された結果賞与支給額が減額されたと認められる額の限度で,第1審被告は第1審原告らに対しその支払義務がある。
(2)そこで,それらの具体的金額について検討する。
アまず定例給につき,本件就業規則等変更がなければ支給されたと認められる賃金の昇給額について検討するに,本件第1次変更により基本給が凍結されなければ,専任職発令後の第1審原告らに対しても,第1審被告が認めるベースアップのみならず,定期昇給もなされたものと認めざるを得ない。
ところで,本給については,もともと50歳で昇給が凍結されているので,業績給の昇給のみが問題となるところ,業績給の昇給は,人事考課に基づき「査定昇給表」により行う旨給与規程に定められており(給与規程20条),その査定は,昭和63年まではS,A,B,C,Dの5段階,平成元年度以降は5から1までで,そのうち3についてはこれを上,中,下と分ける7段階となっていて,最低段階の査定に対しては昇給ゼロとされている(以上の事実は,争いがない。)。
この査定の結果により昇給しなかったとしても,それは本件就業規則等変更によるものということはできない筋合いである。
しかるところ,第1審原告らのように専任職への発令を受けた行員は,昇給凍結
がなされていることから,現実には査定を受けていない(この点も争いがない。)。
第1審被告は,仮に業績給の昇給凍結も本件就業規則等変更による削減に当たるとしても,第1審原告らが専任職発令後に従事した業務内容や専任職発令前の第1審原告らの査定結果からすれば,査定は最低かそれに近く,第1審原告ら主張のように標準査定による定期昇給は認められるべきでないと主張するけれども,第1審原告らの業務内容は,役職が外されたということがあっても,専任職発令前後を通じてほぼ同じ職務で,それほどの職務の軽減が図られているものと認められないことは既に説示のとおりであるし,人事考課規程(甲120の2)によると,考課期間は毎年1月1日から12月31日までと定められていて,考課期間外の事実をもって考課しないものとされており,専任職発令前の査定を斟酌して専任職発令後の第1審原告らの業績給の昇給額を算定することは相当でないから,第1審被告の主張は,その前提において採用し難いものである。
そこで,当裁判所は,上記のとおり査定がなされていないのは,本件就業規則等変更により昇給を凍結した結果であって,それは第1審被告の責めに帰すべき事由によるものと評すべきであるから,このような場合は,標準査定(前記給与規程及び弁論の全趣旨によれば,「B」又は「3中」であることが認められる。)によって業績給の昇給額を算定するのが相当であると解する。
したがって,第1審原告らの業績給の昇給額についての削減額は同原告ら主張の金額となる。
そして,本件就業規則等変更による第1審原告らに対する専任職発令後の上記昇級分をも含めた業績給の削減額並びに役職手当及び管理職手当の不支給額は,原判決別紙3ないし8の各(一),本判決別紙1及び2ないし5の各(一),(二)の1欄に各記載の,専任職発令がなく,新専任職適用がなかった場合の金額から,原判決別紙3ないし8の各(二),本判決別紙1及び2ないし5の各(一),(二)の2欄に各記載の,専任職発令,新専任職適用による金額を控除した残額(差額)であり,それら手当支給額から控除すべき専任職手当の支給額も上記の原判決別紙3ないし8の各(二)に記載のとおりであること,上記のコース別人事制度導入に伴う調整金の不支給額は,第1審原告P1,同P2が平成元年10月から翌平成2年3月までの月額1500円合計9000円,第1審
原告P3が役職手当調整金を含め同期間月額4500円合計2万7000円であることは前記第2の4(1)認定のとおりであって,上記業績給の削減額並びに専任職手当支給によるてん補分を控除した役職手当及び管理職手当の不支給額は,第1審原告ら主張のとおりということができる。
以上によれば,第1審原告らの各定例給の本件就業規則等変更による削減額は,本判決別紙AないしFの各定例給与欄記載のとおり(本判決別紙一ないし六の各定例給与欄の記載と同じ。
なお,明細は,上記各別紙記載のとおり)である。
イ次に,賞与につき,本件就業規則等変更により賃金が削減された結果賞与支給額が減額されたと認められる額について検討するに,賞与の具体的な支給額は,給与規程そのものには定めがなく,銀行全体の業績と考課によりその都度決められるものとされており,従前[(基本給+家族手当)×300パーセント+α(業績メリット)]の算式によって算出されていた運用を,新専任職制度の実施に伴い,第1審被告は,原判決別紙2「賞与」欄記載のとおり改めたが,その実施後も,それまでと同じく各年の賞与の支給算式は,毎年の春闘における労組や従組の要求に対する回答の形式で第1審被告から示され,労組との間ではその回答に従って労働協定が締結され賞与が支給されていたが,従組との関係では,上記回答に対して毎年従担から,専任職制度の実施に伴う賞与支給算式の改定には同意できない旨昭和61年10月に第1審被告に通知済みであり,今期の臨時給の支給算式についても継続交渉とし,今回のみの回答として受け取る旨の通知がなされて,その回答の支給算式による賞与の支給がなされていたことは前記第2の3(6)エ認定のとおりである。
これによれば,賞与支給率の削減は,本件就業規則等変更によるものとは認め難く,α(業績メリット)の削減についても同様である。
したがって,その削減を理由とする第1審原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく失当である。
結局,本件就業規則等変更により賃金が削減された結果賞与支給額が減額されたと認められる額は,前記ア記載の削減がない場合の本件就業規則等変更がなければ支給された基本給(第2業績給を含む。)及び家族手当に賞与支給率(その支給率については後述)を乗じて算出した金額から,第1審原告らが現実に支給を受けた賞与額のうち前記ア記載のとおり削減
された基本給及び家族手当に200パーセントの賞与支給率(ただし,昭和63年から5年間,その削減率を漸減する経過措置がある。)を乗じて算出した金額を控除して算定すべきことになる(役職手当及び管理職手当の分は,賞与の関係では問題とならない。)が,問題は前者の賞与支給率如何であるところ,前記説示のとおり,従組は,例年臨時給の支給算式については継続交渉とするとの留保を付けながらも,今回のみの回答として受け取る旨表明して200パーセントの削減(ただし,上記経過措置がある。)による賞与の支給を受けてきたことは前記のとおりであり,その後の継続交渉によりそれを上回る賞与支給率について,第1審被告と従組ないし第1審原告らとの間で合意ないし協定が成立した事実は本件全証拠によるも認めることができない。
そうすると,その乗ずべき賞与支給率は現実に支給された賞与の支給率と同じく200パーセント(ただし,上記経過措置がある期間は,その漸減された支給率)というべきであり,第1審原告らの賞与削減額(差額)は本判決別紙AないしFの各臨時給与欄記載のとおり(その計算式は別紙Gのとおり。
この計算式で,一部の第1審原告らにつき,専任職発令直後の賞与の差額がマイナスとなるのは,本来は同別紙のA欄の方も専任職発令により分かち計算すべきところ,B欄の方だけ分かち計算しているためである。
しかし,その分かち計算する場合の方式について,第1審原告らから,特に主張立証がないので,正確な差額は不明であり,本判決別紙AないしFの各臨時給与欄には,「0」と転記した。
なお,平成6年6月からの専任職発令(適用)がない場合の賞与の計算式に,第2業績給を加算している。)となる。
2遅延利息の請求について
第1審原告らは,各退職後の各未払賃金につき,賃金の支払の確保等に関する法律6条1項に基づいて,年14.6パーセントの遅延利息を付すべきであると主張し,これを請求するが,その未払賃金とは本件就業規則等変更により減額された賃金であり,その賃金等の支払を求めて本件訴訟に至り,当事者間で,本件就業規則等変更の効力やその変更による未払賃金の額について激しく争われ,原審,差戻前の当審の判断が分かれて最高裁まで争われ破棄差戻しとなって,現在に至っていることは本件記録上明らかである。
こうした事実に照らすと,本件においては,第1審被告に同法6条2項及び
同法施行規則6条4号の事由が存すると認めるのが相当であるから,第1審原告らの上記請求は失当である。
3結論
以上の次第で,第1審原告らの未払賃金の請求は,主文1(1)ないし(6)の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないのでこれを棄却することとする。
そして,第1審被告の仮執行の原状回復の申立ては,上記第1審原告らの認容額の方が大であるから理由がないことになる。
よって,第1審原告らの控訴及び請求の拡張に基づき,以上と一部結論を異にする原判決を変更し,第1審被告の控訴並びに仮執行の原状回復の申立てをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

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